実験4号

生きのばしていく

しりあがり寿『方舟』:「死の向こう側」にある美しさ、あと屋内から眺める雨って良いよねという話

 

 

 

 数年前に大学を卒業して、会社という場で働く身分となってから、雨の日が以前よりも好きになった。

 もちろん、濡れた傘を抱えたサラリーマンが満載されている通勤電車に詰め込まれるのはあまり気分の良いものではない。自宅から駅までが遠いので、その間にスーツの裾がずくずくに濡れてしまうのも困ってしまう。それでも雨が好ましく感じられるのは、大学生の頃より雨に濡れずに風景を眺める時間が増えたからだろう。というのは、今の仕事は社外に出ることが殆どないので、たとえどんなに強い雨が降ろうと、会社に到着してしまえば雨は自分にとってただの「風景」と化してしまうのだ。

 

 

 勤めている会社のビルの6階の喫煙室からは、雨にけぶる街並みが見える。ビルはオフィス街ではなくいたって普通の住宅地に建っているので、他の建物に視界が遮られることもない。窓の外の遥か遠くでは、雨によって霞がかって白い膜が張ったようになっており、その幻想的な雰囲気は、自分が眠気のあまり仕事をほっぽり出して休憩している身分である事を忘れさせてくれるようだ。ビルのすぐそばには川が流れており、それもまた風景にアクセントを与えている。川には鉄橋が架かっていて、その陰となる水面は、雨が激しく着水して水しぶきを上げている部分と綺麗なコントラストを形作っている。

 

 

 視線を下の方に向けると、研究所の屋上でカラスが雨宿りもせずその小さな体全体で雨を浴びている。雨が強いとカラスは上手く飛ぶことが出来ないのだろうか、それとも行水でもしているつもりなのだろうか。汗ばんだシャツを着てひたすらキーボードを叩く労働に従事している自分からしてみれば、その姿はとても気持ちよさそうであった。

 

 

 しりあがり寿の作品に、止まない雨によって滅亡していく世界を描いた「方舟」がある。人々は、街がどんどん雨だまりに沈んでいく中、マンションに逃げ込んだり、恋人とイカダで漂流したり、あるいは山の上の家でひっそりと家族と酒を酌み交わしたりする。そのようにして最後、静かに終わっていく世界はとても孤独で美しくて、もし自分の生きているうちに世界が滅亡するのなら核戦争とか、宇宙人の来襲とか、謎の病原菌とかではなくてこういう終わり方がいいなあとか思ったのだった。

 

 

 この作品のラストでは、水没した街を人々の死体が揺蕩い、そこに太陽の光が射しキラキラと輝いている、そういった情景が描かれる。それは、作者のあとがきから言葉を借りるならば、「もうなんだかすべてのものが甘く、悲しいほど甘く、重たい水の中にとけてゆく『終わり』」だった。

 

 こうした「滅びの中の美しさ」を描くことは、作者がある種滅亡に対し肯定的な視線を持っている、あるいは滅亡を回避することを諦めている、という風に受け取られることもあるかもしれない。でも「滅び」にはそれそのものにもうある種の美しさが内在していて、それは「滅び」というものが世界のエンディングのひとつの在り方であるからだと思う。

 

 一つの物語がエンディングを迎える時、感動的な演出が行われることが多いが、エンディングを迎えること自体にも感動を生む作用があるのではないかと思う。そしてそれは、物語というものは終わることで、作品として何らかの結論を出すという挙動をしてしまうからだと思う。そうして結論が出された物語は、今までの描写に再び意味を与え、汲み上げ、また新しい一面を見せる。その時にまた読者の情動が動かされる。

 

 今は「物語」のレベルで書いたが、例えばこれが人間であれば「人生」という物語の終わりは「死」で、さらに広げて社会や世界というレベルで見れば紡がれる物語は「歴史」であり、そこにも「滅亡」や「解体」などのエンディングがある。そういったさまざまな終わりにも物語のエンディングと同じような機能があるだろう。人が死んだとき、残された人の間で故人のまた新たな人物像が再構成されるということがあるだろう。社会主義国家の解体は世界の思想に大きな打撃を与えた。(詳しくは知らない。自分はインテリじゃないから)

 

 もし「世界」が終わってしまうと、それを観測するものは誰もいない。だから、その「世界の滅亡の美しさ」を表現するためにはフィクションでやるしかない。この作品は、そういうものをやろうとした作品なのかなあと思った。

 

方舟

方舟

 

 

 ところで黄島点心の「黄色い悪夢」の最新話「円盤」も世界が滅亡しようとする話だ。ちょっと今回の文章の主旨とはずれるけど、面白いのでぜひ読むのをお勧めします。

黄色い悪夢 第8回『円盤』第1話

 ていうか黄島点心現代最強の漫画家の一人だと思うですけど、なんでみんな読んでないの?あるいは読んで「おもしれ~、早く続き読みて~」ってなってるのに単行本を買わないとかいう愚行をやっているのですか?

 

 漫画村がどうこう、世間をにぎわせておりますが、自分は読みたい漫画を描く人にお金を落として自分にとってありがたいものが増えていくように行動するのみです。本当は全漫画家にクラウドファウンディングとかカンパとかできる制度があるといいなと思う。贈与税の対象になって面倒くさいのかな?

 

・・・という、2年ほど前に書いた文章をようやく仕上げました。

今後、ぼちぼち文章を書いていこうと思います。

 

あと、パンパスグミというバンドでベースを弾いています。

良かったら聴いてみてね。

www.youtube.com

アイスキャンディの棒をいつまでも咥え続けてしまう

この3連休は普通に死にたさが本当に強くて、公共交通機関とかこわいし台風近いしでほとんど引きこもっていた。いや、まあ土曜日仕事だったんだけど。

 

わからない。全てが悪くなって行っている。好きなものもやりたいことも何にもなくてただ一人で静かに暮らしたい。

 

ここしばらく本当に食欲なくて、土日合計で2食くらいしか食べないことが多い。料理はいいんだけど、食べる事は疲れるし、吐き気がして厳しい。最近ビール飲むと特定の飯が進むことが分かったので、それで頑張って栄養摂取している。(350ml缶1本が限界)

今日読んだコミックビームに市川ラクさんのトルコでの滞在記漫画が載ってて、トルコでは食事時間を決めておくことはせず、「腹が減ったら食う」というスタイルが基本なようだ。いいな、と思った。自分もそういうもんだということにしてやり過ごせないか。でも食べてないから手足震えるということがあってそれはそれでどうしようか。

 

「とりあえずこの日まで耐えて生きよう」という設定日というのがあって、それがずっと「両親が死ぬとき」という設定になっていたのだが、目標が遠すぎて効力を失っていた。ので「来月の兄の結婚式の日」に設定を変えた。目標はショートステップ。多分次は施川ユウキの新作の最終巻発売日あたりが設定日になるだろうか。

 

タバコを吸っているんだけど、別にそこまで美味しいとかじゃなくて、「草に火をつけて煙を吸って吐く」という行為が楽しいのでやってる、というのと、あと自傷。健康に悪いであろうものを摂取して体にダメージを与えてゆく。蓄積が、人生の終わりを近づけてくれる。そんな曖昧な認識。ちなみに吸っているのはラークのクラシックマイルド9mだ。あんまり吸ってる人見ないけど。

 

つづく

音楽と歌詞と歌と

正直なところ、自分は音楽を沢山聞ける人間ではない、と思う。

似たような曲が続くと(それはまだただ単に「別の魅力」を見つけられていないという事だと思うけど、それはさておき)すぐ飽きてしまう。

歌詞がすごい、と言われているバンドの曲を聴いてなまじ演奏も良かったりすると言葉が耳に入らない。あくまで歌は音を構成する一部分として存在していような。

結局のところキャパシティーなんだよな、耳から入ってくる情報を渾然一体なままに受け入れる、それには脳の能力の高い水準が求められる。

 

すごく頭の良い友人がいて、彼はまあだいたいにして何でもできるのだが、一つ、音楽の話題を振ってみるとなると、彼の生命力は5倍増しくらいになってその口から夢幻に言葉があふれてくる。

「チャボ…すなわち仲井戸麗一のソロ作は世界観が全体的にヤバい」「ラモーンズのダウンカッティングのスタミナは尋常じゃない」「ビートルズのアルバムが全リマスターになったらあの曲でポールが普通にミスしてておもろ」

「はは」

そういう語らいをする最中、自分は音楽を聴く能力に関する絶望的な差異を感じる。

音楽を聴いている間、の僕の思っている事は「あ、ここいいな~」の一文で済んでしまう。そしてそう思っていない時間はただボーっとしている。音楽を垂れ流す。歌詞なんで聞けるわけがないのだ。歌詞は歌詞で読んで音楽もきちんと聞いて、それからそれから、ようやく「歌」の全体像を掴む、そんなやりかたになってしまう。そしてそこまでリソースを割くと今度は他の曲を聴く時間がない。いやまあ聞きたいものを聴きたい時に、聴けばよか、とかなんとか、さもありなん、ありますけどね。

 

つづく

 

 

4月・5月に読んだもの

社会人になりました。案外余裕という事がわかりました。

 

あと気に入った作品の感想をここで書くのはしんどいのでやめます。代わりに長文での感想にシフトしていきます。

 

・5月

<漫画>74冊

荒川弘アルスラーン戦記」(5)

五十嵐大介「ディザインズ」(1)

いがらしみきお「誰でもないところからの眺め」

池上遼一山本英夫「アダムとイブ」(1)

いしいひさいち「地底人の逆襲」

板垣恵介刃牙道」(10)

岡崎二郎「緑の黙示録」「まるまる動物記」(1)(2)

奥浩哉「いぬやしき」(1]〜(6)

梶本レイカ「コオリオニ」(上)(下)

業田良家「百人物語」(上)(下)

桜井画門亜人」(8)

ジョージ秋山「アシュラ」(上)(下)

瀬口忍「囚人リク」(27)

道満晴明ヴォイニッチホテル」(1)〜(3)

西餅「ハルロック」(4)

東村アキコ東京タラレバ娘」(1)

福島鉄平「スイミング」「アマリリス」「こども・おとな」

三田紀房「インベスターZ」(1)〜(11)

モンキー・チョップ「名勝負数え唄」

山うた「兎が2匹」(1)(2)

渡辺航弱虫ペダル」(2)~(30)

 

<小説>8作

沢木耕太郎「バーボン・ストリート」「チェーン・スモーキング」「旅の窓」

筒井康隆フェミニズム殺人事件」

平野啓一郎「空白を満たしなさい」

平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」

ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟

ベケットゴドーを待ちながら

 

 

・4月

<漫画>98冊

麻生羽呂今際の国のアリス」(1)~(17)

新井英樹「なぎさにて」(2)

荒川宏・田中芳樹アルスラーン戦記」(1)~(4)

安藤ゆき町田くんの世界」(3)

いがらしみきおぼのぼの」(1)~(9)

イシデ電「逆流主婦ワイフ」(2)

池辺葵「プリンセスメゾン」(1)(2)

石黒正数木曜日のフルット」(2)

板垣恵介範馬刃牙」(1)~(8)「刃牙道」(1)~(10)

笠辺哲「ラタキアの魔女」

木多康昭「喧嘩稼業」(6)

ゴトウユキコ水色の部屋」(上)(下)

三部けい僕だけがいない街」(8)

瀬口忍「囚人リク」(1)~(26)

中野でいち「hなhとA子の呪い」

野田サトルゴールデンカムイ」(7)

橋本智弘・三好智樹・萩原天晴「中間管理職 トネガワ」(2)

福満しげゆき「中2の男子と第6感」(1)(2)

蛇蔵「決してマネしないでください。」(1)~(3)

盆ノ木至「吸血鬼すぐ死ぬ」(2)

松浦だるま「累」(8)

松田洋子「私を連れて逃げて、お願い。」(3)

横山旬「変身!」(3)

渡辺航弱虫ペダル」(1) 

 

<小説>3冊

沢木耕太郎「敗れざる者たち」

筒井康隆「串刺し教授」

本谷有希子「生きているだけで、愛。」

 

今月読んだ漫画のベストショットはこちらです。

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(業田良家「百人物語」上巻、24ページ)

真実を求めて生きていく。そこに才能は関係ない…とか、優しすぎて泣いてしまいますね。

百人物語 上 (竹書房文庫)

百人物語 上 (竹書房文庫)

 

 

 

ところでネカフェを使うことを覚えたのですが、ちょっと乱読気味になりますね。あと漫画はお金がかかるのでもう少し本を読む比率を高めようと思いました。

3月に読んだもの

旅行に行っていたので量は普段より抑え目。

果たして来月以降どうなるのか… 

 

<漫画>95冊

浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(4)

葦原大介ワールドトリガー」(14)

荒川弘「百姓貴族」(4)

荒木飛呂彦ジョジョリオン」(12)

イトカツ「銀のニーナ」(1)

迂闊「のみじょし」(1)

榎本俊二「GOLDEN LUCKY」(上)(中)(下)

おかざき真理「ずっと独身でいるつもり?」

尾崎かおり「人魚王子」

小田扉「男ロワイヤル 」「そっと好かれる」

加藤伸吉「OBRIGADO!」

カレー沢薫「アンモラル・カスタマイズZ」

かわぐちかいじ狩撫麻礼「ハード&ルーズ」(1)~(4)

木尾士目Spotted Flower」(1)

木多康昭「幕張」(1)〜(9)

小坂俊史「これでおわりです。」

さと「空想少女」(1)

佐藤秀峰新ブラックジャックによろしく」(1)~(9)

沙村広明「ブラッドハーレーの馬車」 「おひっこし」「幻想ギネコクラシー」

三部けい「魍魎の揺りかご」(1)「鬼灯の島」(1)

施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」(1)(2)

縞野やえ「服を着るならこんなふうに」(1)(2)

志村貴子「かわいい悪魔」「淡島百景」(1)「どうにかなる日々」(1)(2)

鈴木小波「魔女の箱庭と魔女の虫籠」「盛り合わせガール」「燐寸少女」(3)「ホクサイと飯さえあれば」(1)(2)

清野とおる「ウヒョッ!東京都北区赤羽」(1)~(4)

高田あや「カルト村で生まれました。」

武富健治「心の問題」

竹谷州史須田剛一「暗闇ダンス」(1)

塚脇永久「鉄鳴きの麒麟児 歌舞伎町制圧編」(1)〜(3)

つくしあきひと「メイドインアビス」(1)〜(3)

西川魯介屈折リーベ

野田サトル「ゴールデンカムイ」(6)

萩尾望都「恐るべき子どもたち」

鳩山郁子「ゆきしろ、ばらべに」

久正人ノブナガン(1)~(6)

日辻彩「突撃!自衛官妻」(1)〜(3)

古屋兎丸「インノサン少年十字軍」(上)(中)(下)

マキヒロチ「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」(2)

松田洋子赤い文化住宅の初子

三浦健太郎ギガントマキア

南勝久「ザ・ファブル」(5)

三宅乱丈「王様ランチ」

横尾公敏「百人の半蔵」(1)

よしながふみ「愛がなくても喰ってゆけます。」

 

<小説>4冊

筒井康隆「邪眼鳥」「文学部唯野教授のサブ・テキスト」「魚籃観音記」

中村文則「何もかも憂鬱な夜に」

 

 ・ピックアップ作品

ハード&ルーズ 1巻

ハード&ルーズ 1巻

 

今月のベストです。ハードな美意識に身を包み、ルーズに社会を生き延びていく冴えない私立探偵の物語。男気純度100%の作品。今まで「ハードボイルド」というものがどういうものかピンと来てなかったのですが、このページで本質を理解したような感じがある。

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(かわぐちかいじ狩撫麻礼「ハード&ルーズ」2巻、177ページ)

 

ともかく全ての台詞が異常なレベルでキマっています。

 

魔法少女ならぬ「魔法主婦」の話や、「大人になると動物に姿が変わる世界で自分の容姿に悩む女子高生」の話など、「少しだけ不思議な世界の中で生きる女の子」がテーマのオムニバス短編集。前作「フラグタイム」で割と硬派な百合モノを書いていた「さと」先生でしたが、実はギャグ漫画の方が得意なんじゃねえか?と思わせてくるほどには爆笑の嵐でした。

 

第1話がChampionタップ!で読めます。

tap.akitashoten.co.jp

 

「読書家に見られたい」という願望があるが根性が腐っている女子高生・町田さわ子が織りなす、「名著」にまつわるショートギャグ会話劇。「マニアのめんどくささ」と「本への愛」、「読書家に対する憧れ」、その他名著名言のエピソードがコミカルに描かれます。

 

一番共感して笑ったのは、「ページ数が少ないから」という理由で谷崎「春琴抄」に挑戦した町田さわ子の叫び。

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(施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」2巻、81ページ)

 

個人的には、町田さわ子のスノッブな言動を見て「こういう事を考えながら読書をしたっていいんだ!」となんか励まされました。そういう意味でとても心に優しい作品でした。

 

先日取り上げた「燐寸少女」の鈴木小波先生の作品です。上京した女子大生・山田ブンとぬいぐるみ・ホクサイのアイディアたっぷり自炊飯生活を描いたお話。「ガパオライス」「世界一のクッキー」「ナスば成る夏野菜ラーメン」などどれも死ぬほど美味そう。ていうか自炊楽しそう、となること請け合いです。

 

ところで鈴木小波先生の一枚絵の「良さ」は異常じゃないですか?魚眼パース絵っていうんですかこういうの。

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(鈴木小波「ホクサイと飯さえあれば」2巻、40・41ページ)

 

葬儀屋の青年・神風航の不思議な旅物語を描いた作品。バイク事故で意識不明となり3年後に目覚めた主人公は、眠っている間に街に現れた「王国」に行くことになり、そこで様々な不思議な体験をします。

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(竹谷州史須田剛一「暗闇ダンス」1巻、92ページ)

全体的に非常に斬新な構図が目を引く、ミステリアスな雰囲気のマンガです。

 

ところで、良い旅物語の条件として「登場する食い物がうまそう」というのがあると思うのですが、

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(竹谷州史須田剛一「暗闇ダンス」1巻、108・178ページ)

 

「キャベツキムチ焼きそば」「舞茸鶏団子塩ラーメン」です。どう考えてもうまそうですね。困ったもんです。

 

「歴史上の偉人の魂」を武器に変えて怪獣と戦う、SFバトル作品。久正人先生の絵は全部が全部おっそろしくカッコいいですね。そのくせ話も同レベルで良くできているという。「歴史上の偉人」という要素を取り込むのは「ドリフターズ」と似ていますが、こちらは愛と友情を凄く綺麗に描いた少年漫画(主人公は少女だけど)と思います。

 

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(久正人ノブナガン」1巻、46・47ページ)

 

よく「コンパクトにまとまっている傑作」として水上悟志先生の「惑星のさみだれ」の名前が挙がりますが、「ノブナガン」も同じくらいおすすめされてよい作品なのではないでしょうか…(全6巻だし…)。

 

 

 

 

ところで、このブログは一応「説明」と「感想」の練習のために始めたものなのですが、今回から説明をしっかりつけようと思いました。読みやすい文章が書けるようになりたいので、もしよければなにがしかの反応を頂ければと思います。

2月に読んだもの

冷え症になったような気がします。

 

2月

<漫画>133冊

安達哲さくらの唄」(1)~(3)

荒木光・金城宗幸「僕たちがやりました」(1)~(3)

有永イネ「鬼さん、どちら」

安藤ゆき「町田くんの世界」(2)

アントンシク「恋情デスペラード」(1)

五十嵐健三「匿名の彼女たち」(1)~(4)

石川雅之「テシェキュルエデリム~ありがとう~」

石川優吾「ワンダーランド」(1)

石黒正数「ネムルバカ」

泉昌之「食の軍師」(1)~(4)

伊野ナユタ・阿部定治「デリワゴン」(1)

今賀俊爆球連発!!スーパービーダマン(1)~(15)

梅サト「緑の罪代」

うめざわしゅん「うめざわしゅん作品集成 パンティストッキングのような空の下」

浦沢直樹MASTERキートン:Reマスター」

衿沢世衣子「シンプルノットローファー」

大瑛ユキオ「ケンガイ」(1)~(3)

大川ぶくぶ「ポプテピピック」

大澄剛「千代に八千代に」

大西巷一「涙の乙女」

沖田×華「透明なゆりかご」(1)(2)

尾崎かおり「神様がうそをつく。」

押切蓮介「ピコピコ少年」「ピコピコ少年TURBO」「ピコピコ少年SUPER」

小田扉「ちょっと不思議な小宇宙」「江豆町 ブリトビラロマンSF」

叶精作小池一夫「実験人形ダミー・オスカー」(1)~(3)

河本ほむら・尚村透「賭ケグルイ」(1)

木多康昭「喧嘩稼業」(1)~(5)

牛帝「同人王」

王欣太「達人伝~9万里を風に乗り~」(1)~(6)

倉薗紀彦「彗星☆少年団」

小林有吾「アオアシ」(1)~(4)

佐藤秀峰示談交渉人M

沙村広明春風のスネグラチカ」「波よ聞いてくれ」(2)

しおやてるこ「たまりば」(1)(2)

しまたけひと「アルキヘンロズカン」(上)(下)

涼川りん「りとる・けいおす」(1)(2)

関谷あさみ「千と万」(1)(2)

たかぎ七彦「アンゴルモア 元寇合戦記」(5)

高野雀「さよならガールフレンド」

高野文子「黄色い本」

たかまつやよい「流されて八丈島~マンガ家、島にゆく~」

武富健治「掃除当番」

丹羽庭「トクサツガガガ」(1)~(5)

津覇圭一・作元健二「終末の天気」(1)(2)

手塚治虫ガラスの城の記録」「鉄の旋律」

道満晴明岩井俊二花とアリス殺人事件」

中野でいち「十月桜」

橋本智弘・三好智樹・萩原天晴「中間管理職トネガワ」(1)

速水螺旋人速水螺旋人同時上映」

深沢かすみ・高田郁「ふるさと銀河線 軌道春秋」

フクイタクミ「百足-ムカデ-」(1)

ふみふみこ「さきくさの咲く頃」

細野不二彦ギャラリーフェイク」(21)(22)

盆ノ木至「吸血鬼すぐ死ぬ」(1)

マキヒロチ「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」(1)

昌原光一「江戸の告白」

眉月じゅん「恋は雨上がりのように」(4)

南勝久「ザ・ファブル」(1)~(4)

武蔵野創「灼熱カバディ(1)

模造クリスタル「ビーンク&ロサ」

安永知澄「あけぼのソックス」

山岸涼子「レベレーション-啓示-」(1)

山口貴由衛府の七忍」(1)

山口正人「龍の進撃」「任侠沈没」(1)~(3)

吉田貴司「フィンランド・サガ」(1)~(3)

よしむらかな「MURCIELAGO ームルシエラゴー」(1) 

柳本光晴「きっとかわいい女の子だから」「響~小説家になる方法~」(1)~(3)

 

<小説>3冊

伊藤計劃「ハーモニー」

筒井康隆聖痕」「モナドの領域」

 

<映画>

銀杏BOYZ 愛地獄」

「ヤクザと憲法

「ストレイト・アウタ・コンプトン」

 

良かった作品を適当に掻い摘んで紹介します。

 

 

全体を通じて、「ビー玉を人に当ててはいけない」「でもだからと言って排外主義になってはいけない」というメッセージが貫かれており、娯楽としてだけではなく教育的な意味においても良くできているなと思いました。

  

アオアシ 1 (ビッグコミックス)

アオアシ 1 (ビッグコミックス)

 

とりあえずヒロインが非常にかわいいのはさておき、日本サッカー界のユースについていろいろわかるのと、あとブワっとフィールドに視野が広がるときの描写が気持ちいいです。普段は運動なんぞ死ぬほどしたくないですが、これを読んだ後はやりたい気持ちになってくる。

 

十月桜 (リュウコミックス)

十月桜 (リュウコミックス)

 

絵が非常に好きで、話も救われる気持ちって感じで本当に良かったです。でいち先生のツイッターのエッセイ漫画もとても楽しみにしています。早く「hなhとA子の呪い」を単行本で読みたいです。

 

江戸の告白 (モーニング KC)

江戸の告白 (モーニング KC)

 

今月読んだ中でも最も震えた作品。人の表情が多彩な描かれ方をしていてかっこいい。最後の部分で「人は変わらず、社会は変わる」みたいな雰囲気を出しているのが、歴史物語のロマンを凝縮してる感じがしてとても良いなあと思いました。

 

灼熱カバディ 1 (裏少年サンデーコミックス)

灼熱カバディ 1 (裏少年サンデーコミックス)

 

ただ単にカバディを物珍しいスポーツとして題材にしているだけでなく、チームスポーツの醍醐味やカバディというスポーツの本質まで踏み込もうとする姿勢を感じました。これも読むと運動したくなってくる。 

  

掃除当番―武富健治作品集

掃除当番―武富健治作品集

 

 

あけぼのソックス

あけぼのソックス

 

武富先生と安永先生の作品は、とても個人的な体験や思考をわかりやすくマンガとして表現することで、人が「個」であることを肯定してくれているように思います。それがとても優しく感じられます。

 

任侠沈没 1

任侠沈没 1

 

 天才すぎる。スペシャル版をどうにかして買いたい。

 

ハーモニー ハヤカワ文庫JA

ハーモニー ハヤカワ文庫JA

 

伊藤計劃ってこんなすごい人だったのかという感じです。巻末の佐々木敦さんの解説も伊藤計劃さんについて腑に落ちる情報テンコモリでありがたいです。全体的に自分がいつも考えていることについて書かれていて、今読むべくして読んだのだと思います。

 

 

今月も充実しました。いい気分です。

『燐寸少女』:読解力と情熱への敬意の話

人は他人と自分を比べてしまうという事を良くしてしまうものだと思います。みうらじゅんの言葉で、「現在の自分を、友人・親・過去の自分と比較してはいけない」という箴言(通称「比較三原則」)を聞いたことがありますが、比べてばかりいる事の危険性は誰にとっても当てはまるものです。それでも僕は毎日自分のダメなところを強調しては他人と比べて落ち込むというのをしょっちゅうやってしまいます。まあ暗い性格だとは思いますがそれも自分です。そうやって日々を生きていくのです。

 

僕は最近になって漫画を読み始めるようになりました。以前から漫画を読むことは好きだったのですが、自分から漫画を積極的に買うようになったのはここ最近です。毎日のようにモリモリと漫画を読む今のこの生活はなかなか楽しいものです。ですが、どんな漫画を読んでも胸を張って「最高だった」と叫びたくなるほどの感動が得られるという訳でもありません。もちろんほとんどの作品は「面白いなあ」と思わせてくれるものばかりで、日本の漫画界のレベルの高さには本当に驚いてしまうのですが、やはり時々作品を読んでも内容が良くわからなかったり、自分の中でうまく解釈できなかったりしてもやもやを抱えてしまうといった事があります。

 

漫画を読み始めてみて、いろいろどんな漫画がいいのか調べようとすると、この現代社会には本当に多くの漫画好きがいることがわかります。どの人も漫画がとても大好きで、沢山の漫画を買って、沢山の感動を漫画から受け取っているようです。(もちろんケチつけている人も同様にいっぱいいますが。2ちゃんねるにいる人とかはちょっとケチつけ過ぎじゃないでしょうか?)

 

そうした人々の発言をTwitterとかで見ていると、特に自分が読んでもやもやを抱えて
しまった作品を絶賛している人の声を聴くと、「みんなとても漫画の読解力が高いのだなあ」と思って、少し落ち込んでしまいます。ひょっとしたら別にそんな楽しくなかったのになんとなく面白かったと思いこもうとしているだけの場合もあるのかもしれませんが、まあそういうのは置いておくとして、とにかく自分の読解力の無さに少々絶望してしまいます。自分はあまり「良いマンガ読み」では無いのかもしれない、と考えると、「果たして自分が漫画を読むことに意味はあるんだろうか?」なんて思ってしまったりもします。

 

今週のジャンプ(11号)で、吾峠呼世晴先生の『鬼滅の刃』という新連載の漫画が始まりましたが、僕はこの作品を読んで、最初は「ジャンプにしては淡々としていて地味だなあ」とか、「1話だけじゃよくわかんないなあ」などと思いました。ところがツイッターを見てみると、『タケヲちゃん物怪録』のとよ田みのる先生や、『ホクサイと飯さえあれば』の鈴木小波先生が「ジャンプの新連載やばい」「1話にして異能を感じる」などと盛り上がっていたのでした。恐らくとよ田先生や鈴木先生は大変「良いマンガ読み」なのであって、僕よりもたくさんの良さを『鬼滅の刃』という作品から読み取ることが出来たのだと思います(漫画家の先生が「良いマンガ読み」なのは至極当然なことではありますが)。

 

もし自分の読解力が人に劣っているならば、漫画家の先生たちのような素晴らしいマンガ読みの人たちがマンガから得られる感動を、自分はどうやっても手に入れることが出来ないならば、僕には漫画好きと言える資格はないのではないでしょうか。いや、漫画好きの資格ってなんだよクソが、って感じもしますけど、僕のこのもやもやをいくらか含んだ漫画体験はゴミクズみたいなものなのではないか、とか思ってしまう日々なのでした。

 

 

さて、去年の年末にKindleKadokawa系列の作品が大量に値引きされていたので、とりあえず50冊ほど買ったという事があります。その中の一つ、鈴木小波先生の『燐寸少女』の中の「甘い努力」という話を読んで、こうした気持ちが少しく浄化された部分がありました。

 

鈴木小波先生の『燐寸少女』は、使うと思っていたことが具現化する「妄想マッチ」を巡って、自分の欲望に振り回される人々の姿を描いた作品です。欲望を急速に現実化してしまう妄想マッチによって、人の心の醜い側面が暴かれていく、それがどれも身につまされて、読んでてとてもヒリヒリした心地になります。

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 (鈴木小波『燐寸少女』2巻、1ページ)

 

2巻に収録されている第7話「甘い努力」という話は、パティシエとしてケーキ屋さんで修業中の安木という青年が主人公になっています。

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(鈴木小波『燐寸少女』2巻、29ページ)

彼は過去に陸上を頑張ったけど報われなかったという経験から、努力を嫌悪する性格をしています。また、彼のケーキ屋の同僚に高山という男がいるのですが、彼は安木とは正反対に、愚直な努力を重ね、パティシエとしての実績を少しずつ着実に積み重ねています。

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 (鈴木小波『燐寸少女』2巻、6・7ページ)

 

ある日、ふとした事情から「妄想マッチ」を手に入れた安木は、マッチを使って「努力せずに成功したい」という欲望を叶えます。具体的には、彼の自作のケーキがなぜかコンペで高い評価を受けるようになったのでした。一方で、安木は高山の愚直な努力に対して嫌悪感を抱いていたので、マッチの力で高山のケーキが悪評価を受けるようにしてしまいます。

 

ある時のコンペで、ケーキ作りがうまくいかない高山に、ケーキ屋の店長が店をもう辞めろと言い放ちます。安木は、初めはそれを聞いて動揺する高山をほくそ笑みながら眺めていたのですが、涙で顔面をぐしゃぐしゃにしながら「お菓子を作りたいんです」と叫ぶ高山の姿を見て、安木は突如悟ったのでした。

「ああこいつのは努力じゃないんだ

 恥を捨てられるほどの苦しさを乗り越えられるほどの

 努力と感じないほどの 熱情なんだ
 うらやましい」

(鈴木小波『燐寸少女』2巻、35ページ)

「高山の情熱に自分は敵わない」という事実に気が付いた安木は涙を流します。

 

安木はその後マッチを使うことをやめるのですが、一方でケーキを作ることはこれからもやめないという決断をします。

「俺は鎧を脱いで走ってみる
 そしていつかきっと踏みつぶされる 

 メレンゲのようにぺシャッと 泣き虫の巨人に
 その時笑っていられるかは また別の話」

(鈴木小波『燐寸少女』2巻、37ページ)

安木は自分のケーキ作りの情熱が高山に敵わないことに気づいています。では、なぜ安木はマッチを使うことをやめてしまったのでしょうか?そして、なぜそれでもケーキを作り続けようとすることができるのでしょうか?

 

それはたぶん、安木が何か一つの事に捧げる「情熱」というものに対して、強い敬意を抱いているからなのだと思います。かつて陸上に情熱を捧げながらも夢破れた彼は、報われない可能性がある「努力」を厭になってしまっても、おそらく情熱を捧げること自体の価値は、心の奥底で強く信じていたのでしょう。高山が持つ「ケーキ作りへの情熱」に対しても、例えそれが自分を脅かすものであっても、敬意を抱かずにはいられなかった安木の気持ちを、僕はとても美しいと思いました。

 

そして安木がこれからもケーキを作り続けるという事は、例え自分の持つ情熱が高山のそれに比べてはるかにちっぽけなものであろうとも、確かな熱量を持った情熱が自分の心の中に存在する限り、それを大切にしようと決めたという事なのだと思います。なぜなら、自分が心の中に持つ情熱を大切に出来るのは、世界でたった一人、自分だけだからです。


僕はまだまだマンガ読みとしては未熟かもしれません。しかし、それでも数々の作品を読んで、腹を抱えて笑ったり、涙を浮かべたり、胸がドキドキして苦しくなったりして感動したのは事実です。その感動がたとえ人と比べたらちっぽけなものだったとしても、僕が持つ、僕だけが心に抱いているこの感動を、情熱を、絶対に大切にしようと思ったのでした。

 

『燐寸少女』を読んで、僕はこんなことを考えました。皆さんは何を考えましたか?僕は、自分が考えたことを文章にすることで、僕の情熱と感動を、もっと大切にしていきたいと思っています。これからもやっていきたいですね。

 

 

『燐寸少女』の3巻もそろそろ発売されるようで、とても楽しみにしています。
鈴木小波先生、実写映画化おめでとうございます。